第三話

 

 巨大なメタリックボディの魔物が、大きく跳躍しソロに襲いかかる。
そこにナインがすかさず割り込み、その巨体を盾ではじき返した。
体勢を崩した魔物に追い打ちをかけるように、アルスの剣が魔神斬りを放つ。
それは的確に急所をつき、魔物は地面に倒れ伏した。

「アルスさん、ナイスです! おかげで今僕のレベルがあがった気がします!」

 笑顔でぐっと親指を立てるエイト。
その隣で、ソロがナインに話しかける。

「庇ってくれてありがとうな」
「いえ、今の私はパラディンなので当然ですよ!」

 彼女が斧を背負うと、チェインドレスの鎖がじゃらりと鳴る。
このダンジョンに来る前に、ダーマの神殿で転職してきたのだ。

「なあ、そろそろパルプンテ禁止といてくれよー」
「駄目です。さっき、流星が降り注いで死にかけたじゃないですか!」

 イザがエイトに頼むが、速攻で却下される。
この会話を先ほどから10回ほど繰り返しているのだが、パルプンテにこだわるのには理由がある。
 イザは、メタルキングの剣も、メタル系に有効な特技も習得していない。

メタルに有効な呪文は、パルプンテしか残されていないからだ。

 パルプンテとは、どんな効果をもたらすかわからない呪文である。
敵に大ダメージを与えたり、味方を強化する良い効果もあれば、MPが全部なくなったり、

全員が眠ってしまったりする悪い効果をもたらすこともある。

 イザの世界においては、その大抵が良い効果だ。
が、今日は不調なのか、パルプンテを唱えた3回すべて流星が降り注ぎ、

敵味方すべてがHP1となった。

「……みんな、メタルキングいたよ!」

 アルスが小声でそう言いながら、通路の先を指さす。
その言葉とほぼ同時に、ソロが足音を立てず一気に距離を詰め、その巨体を剣で切り裂いた。
突然の攻撃に驚き戸惑う、その隙をついてエイトの槍が雷光と共にその体を突く――

 

――が、駄目!

「アルスさん!」

 エイトが身を引くのと入れ替わるように、アルスが魔神斬りを放つ――――が、駄目!

 アルスが反撃を受けないように下がるのと入れ違いに、ナインが斧で切り込む。
逃げる暇を与えない怒涛の攻撃。みんなの殺意は異常に高かった。

「外しました……っ イザさん、お願いします!」

 そう言いながらナインは振り返る、が、そこにイザはいなかった。
攻撃の嵐が止み、体勢を立て直したメタルキングは、殺気に怯えて逃げてしまう。

「あー、いっちゃいましたね」

 エイトは少し残念そうに言いながら槍を背中に戻した。
一方、ナインは斧を抱えたまま、辺りを探しはじめる。

「イザさんは一体どこに……ああっ!」

 ナインは思わず声を上げ、口元を手で覆う。
彼女の視線の先を見ると、そこには床に出来た穴に下半身を飲み込まれたイザがいた。

「助けてくれ、ゆ、床に食べられる……!」
「んなわけあるか! とりあえず、引っ張るぞ」

 ソロがイザの腕を掴み引っ張り上げようとするが、逆にどんどん飲み込まれていく。
アルスとナインも手伝うが、一向に状況はよくならない。
エイトは三人には加わらずイザが飲み込まれていく横に屈みこみ、穴を観察する。

「ふーむ、レティスが白黒の世界に誘ったときの穴とそっくりですね。行きつく先は、異世界でしょうか」
「どーでもいいからお前も手伝え!」

 ソロがそう怒鳴ると、エイトはニコッと笑って答えた。

「どうやら抵抗するだけ無駄みたいなんで、ここは素直に入っちゃいましょう!」
「おま、何を言って……うわっ!」

 エイトはソロを掴むアルスとナインの両方の背を軽く押す。
ギリギリで踏ん張っていた二人はその一押しで簡単にバランスを崩し、

ソロ、イザもろとも穴に落ちた。

 勿論、なんの考えもなく突き落としたのではない。
エイトは、三人が引っ張りあげている間に、穴がどんどん狭まっているのに気付いたのだ。

「ま、イザさんの体が半分になってしまうよりはマシですよね」

 そう呟いて、すぐにエイト自身も穴の中へ入る。

 

 直後、穴は静かに閉じた。

 

 

◆◆◆

 

 

 

――聞こえますか、異世界の方


 薄暗い空間に、女性の声が響く。


――無理に引き込んでしまってすいません。

けれど、どうしても貴方に頼みたいことがあるのです


 空間に、ぼんやりと荒野が広がる世界が映る。
人々や動物が、異形の魔物に追われ、抵抗することも出来ず惨殺される様が、映る。


――力を貸して欲しいのです、私の愛しい子供達を救うために


 映像が消え、今度は空に浮かぶ巨大な要塞が映る。
辺りは暗く、その要塞の周りをぐるぐると翼を持つ魔物が旋回していた。


――この世界は、暗黒神ラプソーンと名乗る者によって荒らされてしまいました


 その映像が消え、再び空間は薄暗くなる。


――私はこの世界を見守るもの、人々からは女神ユーフェリアと呼ばれています


――本来ならば私が解決すべき問題。ですが、私の力ではかなわないのです


――どうかお願いします 私に力をかしてください


 目の前にぼんやりと、二つの光が現れる。


――右の光は私の世界に、左の世界は貴方の世界へと通じています


 どうか、と哀願するような声。
 それに対し、少女はまっすぐに右の光に近付き、笑顔で言った。




「そのクエスト、引き受けます!」




 そして、彼女の体を強い光が包みこんだ。

 

 

 

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