プロローグ

 

「無理よ、無理、あんなのに勝てるわけない……!」

 純白の羽衣を身にまとった、金髪の少女。彼女は空を見上げながら何度も首を振る。
彼女の視線の先には、禍々しいオーラを纏った巨大な要塞。
その周りを、数えきれないほど多くの魔物が旋回している。

 彼女は女神で、名前はユーフェリアという。この世界と同じ名だ。
生まれて数百年しかたっていない新米である。
しかし、新米ではあるが、これまで世界の運営はそこそこ上手くいっていた。
人々はみなユーフェリアに似ておっとりとした性格で、これまで戦争など起こしたことがない。
自分の必要な分だけをとり、むやみやたらに自然を壊すようなこともしない。
ユーフェリアは、そんな人々が大好きだった。


 だが、それもあの侵略者によってすべて壊されてしまった。


 暗黒神ラプソーンと名乗ったあの異世界からの侵略者は、世界のありとあらゆるものを破壊した。

争いを一度も経験したことのない世界は、あまりにも脆くて。ろくに抵抗することも出来ず、

村は、緑は、人は、動物は、すべて炎に包まれた。 今はほんのわずかな地域をユーフェリアが守っているが、それもいつまでもつかわからない。

「お姉ちゃん、大丈夫?」
 「ユーリ……」

 ユーフェリアの後ろから、女の子が声をかける。
彼女はユーフェリアの声が聞こえ、姿が見える唯一の存在。いわば、巫女のようなものだ。

「お姉ちゃんも、辛い時には助けてって、言ってもいいんだよ?」
 「ありがとう、でも私は……」

 そこで、彼女は気づいた。

「……そうよ、助けを求めればいいんだわ! ユーリ、貴方ってやっぱり天才ね!」
 「そうかなぁ」

 えへへ、と照れるユーリを下がらせ、ユーフェリアはすぐに術式を組む。

「異世界の人間に助けを求めるわ、そしてこっちに来てもらう。
……大丈夫、暗黒神が通った次元の穴を経由すれば、新米の私だって簡単に出来るわよ」

 そう自分に言い聞かせながら、彼女は術式を完成させる。

「お願い、異世界へ……私の声、届いて!!」


 ユーフェリアの体が、まばゆい光に包まれた。

 

 

 

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