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こちらは主人公共同戦線企画の交流作品となっております。
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ソロ&エイト →おかめ様宅の4主人公・8主人公
セシル&アハト→我が家の4主人公・8主人公
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キノコ狩り
とある世界の、深い深い森の中。あまりにも深すぎて動物がいないその場所に、珍しく人の姿があった。
二人の男が、地面から顔を出す巨石に腰を下ろし、地図を覗き込んでいる。その姿はまるで鏡のようにそっくりだった。肩にかかるほどのエメラルドグリーンの髪。耳元で揺れるスライムピアス。体格も、服装も、腰に帯びた剣まで、寸分の狂いもなく同じだ。
だが唯一、その顔立ちから受ける印象だけは違っていた。右に座っている男は、彫りの深い顔立ちをしている。俗に言うイケメンだ。その切れ長の瞳に見つめられたら、女性はみんな顔を赤らめるに違いない。それに対し、左に座っている男の顔つきは凶悪だった。顔立ちは右の男性同様に整っているのだが、目つきの悪さが全てを損なっている。その目で見つめられても、睨まれているとしか思えないだろう。
「顔のパーツは同じなのに、ここまで違うと笑えてきますね」
少し離れた場所で、彼らの様子を窺っていたアハトが面白がるように言う。その隣にいたエイトも、苦笑しつつフォローした。
「平行世界といっても、全く同じ人はいないからね」
「じゃあ、僕たちも客観的に見れば違うのでしょうか?」
そう言って首を傾げたアハトと、さあ?と答えたエイトは、全く同じ容姿をしていた。華奢な体格、配色が目立つ服装、可愛らしい顔立ち。双子だと言われたなら、十分に納得できるほどよく似ている。
「エイト、アハト、ちょっと来い」
名を呼ばれて、二人は地図を囲んでいるソロたちの元へ向かう。全員が集まると、ソロは地図の中央にある×印を、指先でとん、と叩いた。
「やっぱり、この場所で間違いねぇ。お目当てのキノコはここにあるはずだ」
キノコ。そう、この四人はとある筋からの依頼で、キノコの採取に来ていたのだ。流行り病を治療するための薬。その材料に必要らしい。キノコは森の奥深く、地元の樵ですら恐れる未知の地にのみ生息する。その依頼を引き受けた四人は、こうしてキノコを探しにきた、というわけである。
「でも、この周辺にそれらしい物はなかったけど」
「ああ。だから、ここを拠点にして徐々に捜索範囲を広げる」
ソロは×印の周囲を囲むようにして、指で円を描く。それを横から覗き込みながら、アハトはそっと溜息をついた。
「大きいキノコだから、すぐに見つかると聞いていたのですが」
この分では長引きそうだ、と呟いたその時、不意に地面が揺れた。ぐらぐらと揺れる大地に手をつき、転ばないように体を支える。自然に起きた地震か、それとも別の要因で起きているものか。素早く周囲に視線を向ける四人。その中で、異変に真っ先に気付いたのはエイトだった。
「みんな、あれ……!」
エイトが指をさした先に、“それ”はいた。毒々しいほど赤く、大きな釣鐘型の傘。それを支える、白く滑らかな柄。それはキノコだった。だが、普通のキノコと違い、その背丈は周囲の木々と同じ高さであり、更には巨体に似合う大きさの手足を持っていた。キノコは手足を器用に使い、森の中を歩いている。足が地面を踏みしめる度に、周囲の木々が大きく揺れた。地震の原因はそれだった。
「おばけキノコの変異種か?」
「いや、魔物の臭いはしない。ただのキノコだ」
ソロの言葉を、セシルが否定する。
「もしかして、あれが目的のキノコでしょうか?」
「確かに、教えられた特徴と一致しているね」
「大きいとは聞いてたが、いくらなんでもデカすぎんだろ」
どうしたものかと相談する三人を余所に、セシルはすっと剣を抜いた。
「おい、あのキノコこっちに来るぞ」
「……マジかよ」
一斉に顔を上げた。巨大なキノコが土埃を上げて四人の元に向かってきている。美しいランニングフォームに見惚れる時間も与えられず、一気に迫ってきた。そして数十メートルまで距離を縮めると、突然、柄の部分が裂けた。四人は遅れて、それが何かを理解する。口だ。細かく鋭い歯がぎっしりと並んだ口。そこから謎の粘液を垂れ流し迫る姿は、完全に捕食者のそれだ。
「全員、散れっ!」
ソロが鋭く叫ぶのと、キノコが謎の粘液を吐き出すのは同時だった。歴戦の強者達は素早く反応し、左右に分かれて飛び退く。一拍遅れて、四人がいた場所に粘液が落下した。地面を濡らした粘液は、生えていた草木を溶かし、黒い煙を上げる。
「どこが“ただのキノコ”だ。完全に化け物じゃねーか」
「魔物でないのは確かですよ。セシルさんの魔物に対する嗅覚は尋常じゃないですし」
愚痴りながら剣を抜くソロに対し、アハトは軽く微笑みながらフォローした。そして、自身も背中から槍を抜き放つ。ソロは周囲を見回し、自分達以外の姿が見えないことに気付いて舌打ちした。
「チッ、エイトとセシルは向こうか。しゃーねぇ、一旦引いて体勢を――」
「あ、セシルさんが行きましたよ」
「はぁ!?」
ソロは思わず声を上げ、アハトが指差す方を見る。すると、セシルが大木を登っているのが見えた。木の小さな凹凸に足をかけ、器用に、かつ素早く駆け上がっていく。やがて頂点に到達すると、大きく跳躍しキノコの傘に斬りかかった。
「……まさか、一人で突っ込む奴がいるとは」
「思考が脳筋なんですよ。ま、僕もですけど」
ニッ、と笑って槍をくるりと回す。
「ということで、いってきまーす」
止める間もなく駆け出したアハトを見て、ソロは思わず米神をおさえた。
◆◆◆
セシルがキノコの上に乗った頃、エイトは地上でキノコの足止めをしていた。セシルがキノコの上から振り落とされないようにするためだ。気を自分に向けさせるために攻撃をしつつ、振り下ろされる腕や、飛んでくる粘液を回避する。槍を片手に走り続けながらも、エイトは必死で頭を回転させていた。今、ギガディンやジゴスパークなどの大技を放てば、セシルもただでは済まない。なので、攻撃は必然的に小技が中心になっている。だが、それを考慮してもこのキノコは硬過ぎた。槍で突いても、穂先は数ミリしか埋まらない。
不意にエイトの視界の外から黒い影が駆け、キノコの脚に突き刺さる。それがアハトの疾風突きだと気付いた時には、彼はあっさりとキノコの攻撃範囲から脱出していた。そしていつの間にかエイトの隣に立ち、槍をくるくると回しながら口元に笑みを浮かべる。
「足止め、交代しますよ」
「ありがとう。頼むよ」
それにアハトは笑みを深くすることで答えとし、またキノコの元へ一直線に駆けて行った。速い。疾風突き、薙ぎ払い、五月雨突き。ありとあらゆる手を尽くし、キノコを攪乱していく。完璧にキノコの足は止まり、地響きはなくなった。だが、あれではすぐにスタミナは尽きるだろう、とエイトは思う。短期で決着をつけるつもりなのだろうか。
「エイト、状況は」
背後から声を掛けられ、振り返る。と、そこにソロが立っていた。
「セシルさんが傘、アハトさんが足止めして柄を攻撃してる。けど、硬過ぎて攻撃が入らない」
「硬い、か。セシルが降りて来ないってこたぁ、傘の部分も硬いんだろうな」
切れ長の目を眇めて、ソロはキノコを見る。そこでは丁度、アハトが粘液を空中で回避し、柄に疾風突きを喰らわらせているところだった。鋭い一撃が入るものの、キノコの動きは全く鈍る気配を見せない。口を大きく開き、だらだらと粘液を流しながら、虫を払うような動作でアハトを殴りつける。
「となると、可能性があるとしたら口の中か」
一連の攻防を見ていたソロはそう呟くと、エイトの方に視線を向けた。
「足を狙って転ばせろ。口の中に大技を叩き込むぞ」
「上に乗ってるセシルさんは?」
「自分でなんとかするだろ」
ソロの返答に苦笑しつつ、エイトは小さく頷く。そして、今も暴れているキノコの方に目を向けた。顔を引き締め、槍を低く構える。すぅ、と深く息を吸い込み、力を溜め、大地を強く蹴った。エイトは一瞬でキノコに肉薄し、力強い突きを喰らわせる。会心の一撃。であるにも関わらず、槍の穂先がキノコの体に刺さる気配はない。だが、物理的に押された巨体はぐらりと揺れた。バランスを失い、ゆっくりと後ろに倒れていく。周囲の木々を巻き込みながら、やがて巨体は轟音と共に地面に倒れ伏した。
その間に、詠唱を完成させていたソロは天に手を掲げる。すると空に巨大な白雲が渦巻き、バチバチと蒼い雷を纏った。その様子を見ながら、ソロは形の良い眉を顰める。雲が普段よりも格段に大きい。孕んでいる魔力も多く感じる。その原因はすぐに分かった。――どこかで、セシルも全く同じ呪文を詠唱しているのだ。気が合うことだ、と小さく笑う。そして、ソロは掲げた腕を勢いよく振り下ろした。
「ギガディン」
その瞬間、白雲から二つの雷が生まれた。轟く雷鳴。落ちながらも二つはお互いに絡み合い、一つの巨大な雷となる。術者による完璧な魔法制御を受け、巨大な雷は真っ直ぐに目標へ向かった。そして、突き刺さる。
「――!!」
エネルギーの爆発が、周囲を白く染め上げた。巨体が大きく二、三度跳ね、地面を大きく揺らす。だが、それが終わると、今度は不気味なほどの静寂が辺りを支配した。もうキノコに動く様子はない。ぷすぷすと煙を上げる巨体。周囲に何かが焼き焦げたような臭いが漂う。
「エイトさん! 今なら刃も通るほど柔らかくなっていますよ」
これで切り取って運べますね、とキノコの傍らで槍を振るいながらアハトが言った。怪我をしている様子はない。倒れたキノコを上手く避けたようだ。
「じゃあ、キノコを回収して届けに……あ」
巨体の上で白刃が煌めき、軌跡が走った。キノコが縦に、横に、切り刻まれていく。まな板と包丁を幻視するような手際の良さでカットされたそれは、最終的に一抱えもある欠片に変わった。ようやく剣を納めると、セシルはその欠片を軽々と肩に担ぎ下に降りる。
「これだけあれば十分だろ。戻るぞ」
確かに、依頼された量には十分達しているように見えた。各々武器を納めつつ、巨大キノコに背を向ける。その時突然、アハトが「あっ」と声を上げた。
「そうだ! どうせならもう少し貰って、キノコシチューにしませんか?」
アハトの提案に、エイトとソロの二人は暫し固まり、ゆっくりとキノコの方へ視線を向けた。無残にも切り刻まれたその巨体。配色は赤と白。どう考えても毒キノコの類としか思えない。その上、あのキノコはさっきまで元気に動いていたのだ。歩いたり、走ったり、口から謎の粘液を吐き出したり。それを見た上で、食うという発想は一つも生まれて来なかった。
「別に構わないが、自分で運べよ」
だが、セシルはあっさりとその意見を肯定する。アハトは嬉しそうに頷き、キノコの元へ走っていった。巨体の上で再び刃が煌めく。アハトは長い槍を器用に扱いながら、粘液で汚れていない箇所を切り分けた。その様子を遠くから眺めつつ、エイトは呟く。
「あれ、食べられるの?」
「薬の材料になるんだろ。食えないことはない、と思う」
味の良し悪しは別として。ソロがそう答えると、エイトは暫し考え込むような仕草を見せた。そうこうしている内にアハトは欠片を切り終え、三人の元に帰ってきた。セシルが切った欠片ほど大きなものではないが、一人で食すにはやや大きすぎる。アハトはそれを両手で持ち、セシルの方へ見せた。
「後でこれ調理してくださいね」
「またうちで晩飯食うつもりかよ……ったく、しゃーねぇな」
慣れてしまったのか、セシルは半ば呆れた様子で溜息をつくと頷いた。アハトはにっこりと微笑むと、ソロとエイトの二人に顔を向ける。
「良ければお二人もどうですか?」
「……少し興味があるし、頂こうかな」
エイトがまさか招待を受けると思わず、ソロは少し驚いた。しかし、エイト一人で死地に向かわせる訳にもいかない。もしかしたら案外美味いかもしれない、という可能性を信じて、ソロもその招待を受けた。それを見て、セシルは形の良い顎に指を添える。
「四人分か。買い出しに行かないと材料が足りねぇな」
「じゃあ、俺が行くよ。後で何を買えばいいか教えてね」
「そうと決まれば、さっさとキノコを届けてセシルさん家に行きましょう!」
アハトの元気な声を先頭に、一同は再び森の中を進む。こちらに来た時に使った旅の扉がある場所まで戻るのだ。そんな中、一人着いて来ないことに気付き、ソロは足を止めた。振り返れば、セシルが立ち止まってぼんやりと遠くを見ている。所謂、遠い目というやつだ。何かあったのかと思い、ソロは声を掛ける。
「おい、どうした?」
「……ソロ、頼みがある」
急に改まった調子で言われ、ソロは思わず身構えた。セシルの目は真剣そのものだ。一体、この場で何を頼まれるのか。ソロはセシルに頼みごとの内容を言うように促す。
「エイトと、アハトを交換――」
「却下」
「即答かよ」
盛大な舌打ち。だが、セシルに本気で怒っている様子はない。元々、引き受けてくれるような頼みごとではないと自覚していたのだろう。ソロは怪訝そうな顔でセシルを見る。
「っていうか、本当にどうしたんだよ急に」
「いや……買い出しを引き受けて貰ったのが嬉しくて。つい、な」
同じ顔なのにどうしてこうも違うのか、と深い溜息をつくセシル。それ見ながらソロは、ふと頭に浮かんだ言葉をそのまま口にした。
「でも、なんだかんだで組んでるってこたぁ、アハトのことも嫌いじゃないんだろ」
「……うるせぇ」
視線を逸らし、舌打ちをする。図星だったらしい。照れ隠しなのか黙り込んでしまったセシル。空気を変える為に、ソロはわざと明るい声を上げる。
「ま、交換はできねぇけどさ、一夜の恋人くらいは紹介してやれるぞ」
「おい、どうしてそうなった。んなもんいらねぇよ」
「遠慮するなって。最近ご無沙汰なんじゃねーの?」
「いらねぇつってんだろーが! 叩き斬るぞ!」
「あ、喧嘩するなら僕も参加します! エイトさんはこのキノコを守ってて下さい」
「えっ、ちょっと、アハトさん?」
わいわいと騒ぐ四人の声が、夕暮れ時の森に響く。
果てしない地平線の向こうでは、ゆっくりと日が沈もうとしていた。
ということで、
共闘企画主催者であるおかめ様の4主人公&8主人公と交流させていただきました。
本日は4月8日ということで、この二人をお借りしました。
本当は、エイトさんはもっと男前で、ソロさんはクールなんですが……
文章力が足りないからか、書ききれなかったです。精進します。
今回、このお二人を御貸し頂きありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。
もし、ソロさんやエイトさんの言動に違和感があれば指摘下さると嬉しいです。
全力で修正させていただきます。
では、ここまで読んで下さりありがとうございました。