注意

こちらは主人公共同戦線企画のお題に沿った交流作品となっております。

(※共闘企画様は現在閉鎖しております)


ハイン(エイト)→おかめ様宅の8主人公
セシル(ソロ)→我が家の4主人公

 

我が家の主人公設定はこちらから。

おかめ様の主人公設定及びお題は、おかめ様のサイトから閲覧をお願いします。

邂逅


 振り向きざまに薙いだ剣が、動く石像の頭を叩き壊す。制御を失った石像が倒れると、土埃が舞った。血潮の臭いと汚れが付かない分、物質系統の相手は楽でいい。そんなことを思いつつ砂塵を吸い込まないようさっと袖で口元を覆うと、次の敵へと一歩踏み込む。――と、不意にぐらりと己の体が傾いた。石像の破片を踏んでバランスを崩したのだと気付き、思わず舌打ちをする。視界の端で、動くサーベルが俺の首目掛けて刃を振り下ろすのが見えた。

 

「遅い」

 

 空中で身を捻って斬撃を回避。そのまま地面に手をついてバック転して距離を取る。即座に体勢を整えると、真っすぐこちらに突っ込んで来たサーベルを真っ二つに叩き折る。完全に機能を停止したか確認する時間も惜しい。サーベルを踏みつけて砕きながら、顔を上げた。瞬間、ニヤケ面と目が合う。爆弾岩だ。胡散臭い貼りつけたような笑みを見ていると、同種の笑みを常に浮かべる知人の青年を思い出す。何か無性に腹立たしくなってきた。思わず眉を顰めたのと同時に、爆弾岩が体を大きく膨らませる。爆発の兆候だ。

 

「うっぜぇ」

 

 ニヤケ面を渾身の力を込めて蹴り飛ばす。爆弾岩は放物線を描いて魔物の群れに落ちた。爆音。そして砂煙。

 

 砂煙が落ち着くのを待ち、ゆっくりと空気を吸い込む。漂うのは死臭のみ。生きた魔物の臭いはしない。今の自爆で魔物は一掃出来たらしい。終わった。ようやく俺は地面に腰を下ろすことが出来た。戦闘が終われば、背中や肩、腕の切傷や打撲痕がじくじくと疼いて存在を主張する。だが、治療するための魔力はとっくの昔に尽きていた。袋から取り出した薬草を口に詰め込みながら、ここに至るまでの経緯を回想する。

 

 今から少し前。世界中の人間から英雄に関する記憶、世界が一度危機に陥って救われた記憶が失われた。俺は特に動じることもなかったが、ニヤケ面の知人――エイトに泣きつかれて、渋々事態の原因究明を行うことになり、自室で今後の相談をしていた。その時、不意に視界が歪んだ。視界が元に戻ると、どういう訳か一緒にいたはずのエイトとはぐれ一人でこの場所に立っており、何故か周りに魔物がうじゃうじゃいたので殲滅している。回想終わり。

 

「……はあ」

 

 深く溜息をつく。殺した魔物の数は五十を超えた所で面倒になり数えるのを止めた。この場所の造りは神殿に似ているが、神聖な場所に魔物は住み着かない。大方ここで奉られている神は、破壊神とか暗黒神といった系統の碌でもないものだろう。否。神自体、碌でもないものではあるが。薬草の束を黙々と口に入れながらそんなことを考えていると、嗅ぎ慣れた――嗅ぎ慣れてしまった魔物特有の悪臭が鼻につく。その臭いが段々と濃くなるのを感じながら、薬草を呑み込んで立ち上がった。剣を構える為に腕に力を込めると、中途半端に閉じた傷がまた開いて血が滲む。だが、痛みは感じない。魔物に対する殺意と憎しみが全てを塗り潰し、ただ戦闘だけに集中させてくれる。

 

 地面を揺らす足音が近づく。砂埃を巻き上げて、こちらに向かってくる魔物の一団。先頭にいるのはゴーレム、動く石像といった体力と耐久が高い魔物だ。目を凝らせば、奥には悪魔神官の姿が見える。前衛後衛の概念がある所から察するに、知能は高いらしい。一通り観察を終えると、鋭く息を吐き。天空の剣を構え、石畳の床を強く蹴ってゴーレムに肉薄する。

 

 振り下ろされるゴーレムの拳。それを辛くも回避すると、石畳が拳の形に抉れる。攻撃直後の硬直を狙い、横っ腹に剣を叩きつけた。金属同士が激しくぶつかり火花が散る。が、ゴーレムは多少よろめいたのみですぐに体勢を立て直した。硬い。思わず舌打ちする。悪態をつく暇もなく、背後からの殺気に気付き地面を転がる。肩を石像の脚が掠める。普段ならば完璧に避けられる攻撃だが、疲労が蓄積した体は重く、思ったような動きが出来ない。

 

 視界の端に死の影がちらつく。それを振り払うように体を起こし、剣を薙いだ。ゴーレムや石像の破片が散るが、致命傷には至らない。魔物が俺の周囲を囲み、退路を断つ。もとより退く気など毛頭ないが、魔物にしては随分と統率が取れている。もしかすると、と思い悪魔神官の方に目をやれば、三体のゴーレムを手元に置いて高みの見物を決めていた。あれが首領で間違いはないだろう。なら、やる事はシンプルだ。隙を作り、包囲網を潜り抜けて悪魔神官を叩き斬る。

 

 再び拳を振り上げるゴーレムを冷静に見据えて、回避に専念しようとした時。

 

 不意に、ゴーレムが吹き飛んだ。

 

「――ソロッ! 大丈夫!?」

 

 赤いバンダナに、黄色の上着、青いインナー。そして見慣れたニヤケづ――否、目の前に現れたそいつは一つも笑ってなどいなかった。槍を振り回し、ゴーレムや石像を牽制しつつこちらを気遣うような視線を向ける。俺の知るエイトなら、心配するよりも先に軽口を叩くはずだ。誰だこいつ。思わず眉を顰め、青年から距離を置く。

 

「エイトじゃないな。誰だお前」
「何を言って……俺は、エイトだけど」

 

 困惑の表情を浮かべる青年。こうしている間にも、石像やゴーレムは攻勢の手を緩めない。振り下ろされる巨大な拳を剣で捌きながら、俺はすんと鼻を鳴らした。あの青年から魔物特有の悪臭はしない。魔物でないのは間違いないだろう。ならば、正体不明の相手でも助けを乞うのが上策か。

 

「……この疑問については、後で追及する。悪いが手を貸してくれ、俺に回復を頼む」
「……分かった」

 

 釈然としない様子ではあるが、青年は頷いて槍を持ち直し、豪快に大きく薙ぎ払う。槍の鋭い穂先がゴーレムたちの脚を打ち砕いた。足を失った奴らは大きくバランスを崩して地面に倒れ込む。硬いゴーレムの身体を槍の一振りで砕くとは、俺の知るエイトよりも力があるかもしれない。最前線のゴーレムが倒れて、後ろに控えていたゴーレムが前に出るまでの間に青年は素早く詠唱を完成させる。

 

「ベホマ」

 

 発動キーを唱えた瞬間、俺の身体が暖かな光に包まれた。傷が塞がっていく。これでまだ戦える。剣を握り直し、顔を上げた。

 

「あの悪魔神官が要だ」

 

 一拍、奇妙な間が空いた。俺も青年も互いに顔を見合わせる。要だ、と言えば、真っ先に飛び出して敵を薙ぎ払いながら突進していくのが俺の知るエイトだ。それに合わせて立ち回るのが癖になっていたことに初めて気づいて、眉を顰める。それでも、青年はそれとなく俺の言わんとしていることを察したのか、小さく頷いた。

 

「俺が道を開けるよ」

 

 青年はそう告げてから、ゴーレムの壁に向かって駆け出した。その後を追うように俺も走る。青年が槍を振るう度にゴーレムはバランスを崩し、動きが止まった。その隙を狙って、器用に脇をすり抜ける。無駄一つなく徹底的に洗練されたその動作に、思わず青年を注視した。よく観察してみれば、槍の一撃を放った瞬間にバランスを崩しやすいように真空波を放っている。堅実な戦い方だ。無駄に槍を振り回すのが好きなエイトとは全く違う人物なのだと心中で確信する。

 

 着実にゴーレムの障壁を潜り抜けていくと、悪魔神官の姿がちらちらと見えるようになってきた。その口元は弧を描いている。もう少しで辿りつかれるというのに、何故笑うような余裕が――そこで俺は、ハッとした。

 

「――ッ防御しろ!!」

 

 そう叫ぶのと同時に、青年の前の空間が爆ぜた。砂塵が巻き上がり視界を覆う。

 咄嗟に剣を前にかざし、爆風を受け止める。熱を孕んだ風が頬を焼く。最上級呪文イオナズン。悪魔神官が得意とするこの呪文の存在に対して、警戒が足りなかった。思わず小さく舌打ちをする。少し後方にいた俺ですら、爆風で後ろに押されているのだ。前方でまともに爆風を受けたあの青年はどうなっているか分からない。砂塵で不明瞭な視界に眉を顰める。青年の安否を確認しようと一歩踏み出した時、強い向かい風が俺の髪をなびかせた。

 

 真空波による風だ、と気づいた時には視界が晴れていた。青年は平然とした様子で、先ほどと同じ位置に立っている。服の端が黒く焼き焦げているものの、体に大した火傷や傷は見られない。青年は地面に突き刺さった槍に手を伸ばして、握る。その瞬間、地面に魔法陣が展開し魔力を纏った雷が魔法陣から迸る。完全に不意打ちとなったその攻撃は、ゴーレムたちの胸を貫き、地面に縫いとめる。青年がこちらに視線を寄越した。目が、今だと言っている。

 

 それに俺は地面を蹴ることで応えた。地獄から招来された雷が四方八方に迸る中を駆け抜け、一直線に悪魔神官を目指す。手下が全員動けない状況であっても、悪魔神官は余裕のある笑みを浮かべていた。魔力を纏い赤く輝く手の平をこちらに翳す。それを見て、俺も己の胸に掌を押し当てた。

 

「――マホステ」

 

 爆風が迫るよりも早く、体を紫色の濃霧が包み込む。熱や衝撃は全て霧に吸い取られていき、体には傷一つつかない。これで完全に魔力は空になったが、この一撃で仕留められたならそれで終わりだ。迷わず爆風の中を駆け抜け、最後に強く地面を蹴る。大きく跳躍。イオナズンの爆風の中から無傷で飛び出してきた俺を見て、悪魔神官の口元が引き攣るのが見えた。それに獰猛な笑みで応えて、体重を乗せた重い斬撃を放つ。無防備な肩から脇腹までを、白い刃が切り裂いた。明らかに致命傷だが、手は抜かない。返す刃で、首を狩り取る。迸る黒い血が神官服を染め上げた。悪魔神官の頭は引き攣った笑みを浮かべたまま、地面に転がり落ちる。一拍の間を置いて、体も地面に倒れた。

 

「お疲れ様」

 

 そう声を掛けられて振り返ると、機能を停止したゴーレムが大量に地面に伏していた。悪魔神官狩りに集中している間に、周りのゴーレムや石像を倒していたらしい。否、集中させるためにゴーレムたちを引き受けたのだろう。おかげで普段よりも格段に楽な戦闘が出来た。この気遣いの1%でもエイトに存在していたら、どれほど俺の負担が減るだろうか。そう考え込んでいると、青年は怪訝そうな、心配そうな顔で此方を見ていた。その顔からは穏やかな好青年という印象を受ける。

 

「助けて貰って悪かったな」
「いや、俺は大した手伝いはしていないから。
 ……けど、一緒に戦っていて分かったよ。君は、ソロじゃないよね?」

 

 真剣な目からは警戒の色も窺える。そして、俺の目にも同じ色が映っているだろう。お互いがお互いに抱く疑念をどのように解けばいいのか。それを模索する為に、俺は慎重に言葉を選びつつ口を開いた。


◆◆◆


 平行世界の人間である、という答えに辿り着くまでにさほど時間はかからなかった。これまで辿った人生や旅の大筋は同じだが、結末は異なる。性格や嗜好も違う。姿形もよく似ているものの、細かい所や受ける印象が異なる。最早、全くの別人であると考えた方が良い。そう結論付けた俺達は、互いに違う名前で呼ぶことにした。

 

「……それで、ハイン。ひとまずこの異変の原因を突き止める為に探索するという方針でいいか?」
「うん。俺達の他にも巻き込まれた人がいるかもしれない。そんな人たちと合流しながら、探索していこう」

 

 青年、ハインは、しっかりと頷いた。これほど真面目に今後の方針を練ったのはいつ振りだろうか。優しげな面差しとは違って、内面は随分としっかりしているらしいとこれまでの会話で痛感した。どこかのニヤケ面に爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。内心で愚痴りつつ、ゴーレムの屍から腰を上げる。空だった魔力は、ハインがくれた魔法の聖水のおかげですっかり回復した。次も全力で戦えるだろう。

 

「ああ。それじゃ、そろそろ行――」
「――あ、ッ待って。動かないで」

 

 その言葉を聞いて、反射的に体を硬直させる。魔物の臭いはしない。まさか罠でも踏んでしまったのか。緊張しつつ、ハインの方へと視線だけを向ける。すると、ハインは俺の頭部の方に目を向けていた。一体何があったというのか。緊張が高まる。うなじを髪の毛がくすぐるが、それに反応して動くようなことはしない。……待て。体を動かしていないのに、どうして髪の毛が揺れている?

 

「風が吹いてる。多分、あそこから」

 

 ハインは壁に歩み寄る。先ほどの激戦の中で、ゴーレムの拳がめり込んだのだろう。壁には大きな窪みと、無数の亀裂が走っていた。俺も硬直を解いてその亀裂に歩み寄る。亀裂から吹き込む冷たい風が頬を撫でて、耳元のスライムピアスを小さく揺らす。

 

「向こう側は外か」
「かもしれない。亀裂の向こう側は見えないけど……」
「なら確かめるまでだ。これを壊す」

 

 ここがどこなのか、ヒントを得る為には多少強引に進むことも必要だろう。躊躇いなく剣を鞘から抜く。ハインも槍を手に取り、体勢を低く取る。亀裂は入っているものの、頑強な壁であるのは一目で分かる。壊すとすれば本気でいかなければならない。剣に刻まれたルーン文字に指を滑らせると、白い刃に電流が走りパチパチと小さく爆ぜる。自分の持てる最大火力を剣に込めて、構える。

 

「準備は良いか? 3、2、1で同時にやるぞ」

 

 ハインは真っ直ぐ壁に視線を向けたまま、小さく頷いた。

 

「3、2……1」

 

 白い雷を纏った剣の刀身と、黒い雷を迸らせる槍の穂先が同時に壁を襲う。

 

「ギガソードッ!」「ジゴスパーク!」

 

 手応えは、あった。白と黒の光が分厚い壁を貫き、向こう側の景色を俺たちに見せる。雲一つない青い空と、一面に広がる緑の草原。いや、緑の空と、青い草原――? 刹那、視界がぐるりと反転する。上が下に、下が上に。隣にいたハインの目が驚きで見開かれたのが、視界の端に見えた。俺も同様の表情を浮かべているだろう。戸惑う俺達の背中を突風が強く押して、体を外へと放り投げる。


 俺たちは、空へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

共闘企画主催者であるおかめ様の8主人公と交流させていただきました。

お題小説となっております。

 

おかめ様の交流作品でヨハンさんとこちらのアハトさんが出会ったので、こちらも同じ4と8の組み合わせで書かせて頂きました。単純にこの組み合わせが好みだというのもありますが。おかめ様の好青年なハインさんが好きなのですが、上手く表現出来ないのがもどかしいです。

 

この度はハインさんを御貸し頂きありがとうございました。

作品のハインさんの言動に違和感や問題があればいつでも訂正、取り下げます。

 

それでは、ここまで読んで下さりありがとうございました。